office inuck立ち上げ秘話

こんにちは、office inuckを運営する株式会社木下商会 代表の村山です。

「office inuck(オフィス イヌック)」は「オフィス+居抜き」というめちゃめちゃニッチな領域をハックするWebメディアです。inuは犬ではなく「居抜き」という意味で、オフィス=office、居抜き=inuki、ハック=hackからちょっとずつ採ってoffice inuckと名付けました。

メディアにするくらいだから切り口が明快じゃないといけない気がするのですが、office inuckはオフィスの居抜きの「情報じゃなくてノウハウ」をユーザー目線で集めたいなぁくらいな、あんまり鋭くない感じで始まりました。

オフィスの居抜きって、「お得じゃん」って感じしか訴えてくるものないような気がしますが、空間づくりをしている僕らからみると経済的なことだけじゃなく、大きなテーマとして「空間を引き継ぐ」ってことなんです。

今あるものを活かしてとか素材を活かして、なんて言葉は日本人だと自然といい評価しがちな行動ではあるんですけど、現実はそれ以上に鮮度が大切だったりするんです。その証拠に新築の家が今でもたくさん作られていますね。オフィスの世界でも基本的には同じで、原状回復された標準のオフィスインテリアをみて入居を決めて、自分仕様にオフィスを新築するのが当たり前でした。その方がビジネス的に責任区分がしっかりするので、嗜好性以上に制度的に当たり前になっていたんです。疑いようのない空気のように。

原状回復とは、以前オフィスを使用していた会社が作った部屋や変更したカーペットをなくして、何もない標準的な状態にすること。多くのオフィスビルはグレーのカーペットに白い壁、標準的な四角いLED(蛍光灯)を標準状態としている。
写真出典:https://jp.freepik.com/

それが今、オフィスの居抜きに注目が集まっているんです。

もともとは社会の制度的な不合理のアンチテーゼとして、裏でプロ同士だけができる手続きを引っ張り出してきた形で表に出てきました。制度的には難易度が高いけど、物理的コスト的に良いといったものでした。最初は流行に敏感な店舗づくりビジネスとして流行し、保守的なオフィスの現場まで流れがきたんです。

一方で住まいの空間では、それよりも早くリノベーションという分野が首都圏を中心にブームが起こり、ストックとなっていたマンションや中古住宅に価値を見出すようになっていました。それでもリノベーションと言いつつ、単にインテリアを新しくやり直すだけのものが多く、空間を引き継ぐといった価値が浸透していたわけではありません。ただユーザーにとって引き継いでいくという行為が身近にはなってきていました。

それらの背景の中でオフィスの居抜きというのは、まだ始まったばかりで一般的な選択肢にはなっていません。そして住宅のリノベーションのように新しい価値観を生み出してもいません。オフィスの居抜きは、すごく中途半端な方法でただのブームにしかなっていないのです。

オフィスの居抜きはいくつかパターンがあり、家具を全部置いていく、このオフィス用に作った造作家具だけ置いていく(この写真だと中央のカウンターソファやガラスホワイトボード)、家具は移転先に持っていくが原状回復はしない(壁の絵は塗りつぶさずにそのまま)などがある。Twitterでも移転するので居抜きでオフィスに入ってくれる会社を募集しているのを見かけることが多くなった。家具もそのまま使えてお得!よりも、自分たちの愛したオフィスを引き継いで新しい価値を作ってくれる人を募集しているように見える。
写真出典:木下商会

空間をつくる者として、引き継ぐは新しい価値を生み出すきっかけだと強く信じています。「お得」って目の中にドルマークを描きながらオフィスの居抜きを眺めるのではなくって、今ある価値にプラスして良いものにしようっていう観点があってもいいと思うんです。それを研究したい、知ってほしいってのがメディアをつくった動機な気がします。

今までのように「ゼロから好き勝手に最適なものをつくる」オーケストラなアプローチではなく、「そこにある価値に共感しながら楽しみを増やしていく」ジャズなアプローチがオフィスの中にあっても面白いはず。それをゆっくりと追いかけていく記録として1日でも長く続けていきたいと思います。

office inuckをどうぞよろしくお願い致します。

村山 太一