オフィスづくり

オフィス移転時にデザインをコンペで決めるメリット、注意点など

働く環境の見直しや、事業拡大などでオフィスを移転するとき「内装デザインをコンペで決めたい」と考える企業担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

働きやすいオフィスにするために、複数の会社から提案を受けられる「デザインコンペ」は効率的です。しかしはじめてデザインコンペを企画する場合、どのような準備が必要か、またどのようなことに注意すべきか等、知らないことが多く不安をもつこともあるでしょう。

本記事ではオフィスデザインをコンペで決めるメリットや方法、注意点などを解説します。この記事を読めば、オフィスのデザインコンペを成功させる方法がわかります。

オフィスのデザインコンペとは

コンペはコンペティションの略語で、「競争」「競技会」を意味します。ビジネスにおいては建築設計やCM、プロモーションなどクリエイティブの分野で専門業者への仕事発注の際に、複数の業者から提案を受け、その中から一番優れた提案を選択することを言います。

オフィスのデザインコンペも同様に、複数の内装設計業者が提案するデザインの中から、一番優れた提案を選べる仕組みに対して使われる言葉です。

オフィスのデザインは会社のイメージを決める大きな意思決定となるので、新しいオフィスに移転する際やオフィスデザインを変更する際の業者選びはとても大切です。コストやデザイン面など理想的な条件のデザインに出会うには、1社だけではなく複数のデザイン提案を見ると効果的です。

依頼する会社が多すぎると選定のタイミングで大変になってしまうので、一般的には3〜4社に絞って依頼します。コンペに参加してもらった会社と必ずしも契約する必要はないので安心して依頼しましょう。条件に合わない会社を途中で断ったり、違う会社を参加させたりすることもできます。とはいえ失礼な対応をしてしまうと自社の悪い評判を広めることにもなりますので、節度ある対応を心がけましょう。

入札、相見積との違い

複数の見積提案を依頼しようと思ったときにわかりにくいのが「入札」と「相見積」の違いです。オフィスのデザインコンペでは、どちらを利用すればいいのでしょうか。入札と相見積の違いを確認してみましょう。

「入札」と「相見積」をわかりやすく説明すると、以下の通りです。

入札複数の業者が提案した見積のなかから最低金額を提示した業者に決めること
相見積1つのプランに対して複数の業者が同じ条件で出した見積を比較すること

一般的にデザインコンペといえば、提案内容も重要となってくるため相見積になります。

コンペでは、各社からデザインコンセプト・レイアウト・パース・見積など移転全体のイメージがわかる提案を受けて、そのなかから最も優れたパートナーを選びます。ただ単に見積金額を低く出した提案が選ばれるわけではなく、クオリティが高く発注者の要望にそった提案かどうかが重視されます。

オフィスデザインコンペを行うメリット・デメリット

コンペは理想のオフィスをつくるための非常によい方法ですが、いい点と悪い点があります。失敗とならないコンペを行うために、メリットとデメリットをくわしく解説していきます。

まずは気になるデメリットから見てみましょう。

デザインコンペのデメリット

主なデメリットは以下の3つがあります。 

コンペの知識と事前の準備が必要になる

まずプロジェクトの全体像を把握して適切な対応をする必要があり、参加するデザイン会社の選定や正確な提案依頼書の作成など、事前の準備が重要になります。そのため主催者側にもある程度の知識が必要です。

コストと時間がかかる

コンペを開催しない場合に比べてコストと時間がかかるのもデメリットのひとつです。結果として品質やデザインを重視することが多く、費用が高くなりやすくなります。加えてコンペフィー(参加報酬)を設定する場合があり、さらにコストがかかります。

複数の会社に依頼するため、準備時間や打ち合わせ回数なども通常よりも多く、時間がかかってしまいます。通常の発注よりもスケジュール管理が重要になってきます。

担当する人材や時間を確保しなければいけない

関係者に漏れなく情報共有したり事前の資料作成や計画の段取りしたりと作業が煩雑になるため、窓口になる担当者を選んだりと人材・時間の確保も大切です。

上記のデメリットを考慮して、デザインコンペを行いましょう。

デザインコンペを行うメリット

続いてデザインコンペを開催するメリット3つを紹介していきます。

複数のデザイン・コストの提案を比較してマッチする提案を選べる

提案を比較検討して、マッチする提案を選べるのは大きなメリットです。アイディアや構想ベースの簡単な比較では見えてこないものが、完成されたパッケージ提案での比較で見えてきます。実現したいデザインや機能に対して予算感やスケジュール感が一気に掴めるので、知見不足で生じるプロジェクトへの不安が解消されます。デザイン自体も絵でみせてくれるので、理想のオフィスデザインに出会える可能性も高くなります。

依頼時には把握できてなかった隠れたニーズに気づける可能性がある

準備をするなかで、オフィスに対する隠れたニーズに気づけるメリットもあります。同じように各社の提案に当初想定していなかったアイディアが入っていたり、構想が形になることでニーズが見えてくるケースもあります。たとえば「社員のモチベーションアップ」「コミュニケーションが円滑になる」など、提案という形となって気づくことも多いでしょう。それらをたたき台としてニーズを整理していけば、オフィスをより良い環境に変えられるのです。

まとまった提案を同時に見れるため、社内のメンバーに意見を募りやすくなる

理想の提案が一つだけあったとしても人はなかなか決めることができません。会社としても大きな決定をしていくのに社員の意見も必要な場合も多々あります。その時に未来のオフィスが可視化された提案書があれば、担当者以外のメンバーからも意見を募りやすくなります。会社全体の納得感の強い新オフィスが実現できるというメリットがあります。総合的にクオリティの高い働く場所をつくるために、デザインコンペは有効な方法といえるのではないでしょうか。

デザインコンペを開催する際の注意点

実際にデザインコンペを計画する場合の注意点を3つ紹介していきます。

①プロジェクトおよびコンペのスケジュールの設定

デザインコンペとなった場合、通常は複数の会社に参加を促し提案を集めるため、1社だけに依頼して提案をもらい、プロジェクトを実施するよりも、提案を集めて検討する分余計に時間がかかります。またプロジェクトを煮詰める期間や工事期間についても、デザインにこだわったり施工業者を相見積りしたりと通常の期間よりも長くなる傾向にあります。そのため限られたスケジュールのなかで円滑にプロジェクトを進めるためには、開催者側でプロジェクトの全貌を把握して、スケジュール管理ができる知識や経験のある担当者が重要になってきます。

コンペ自体の大まかな流れは以下の通り。

  1. プロジェクト要件を設定(社内調整を行い求めるスペックを決める)
  2. コンペ参加者を選定(複数のデザイン会社に参加可能か打診する)
  3. コンペ概要説明会を開催(参加者に概要を伝え、現調や質疑応答を行う)
  4. プレゼンおよび提案の選定(複数案の中から今回のプロジェクトのベースとなる案をひとつ選ぶ)
  5. 契約開始(プロジェクトのスタート)

プロジェクトの規模にもよりますが、100-300坪のスケジュールの目安は、コンペの準備期間2週間、コンペ期間3〜4週間、計画・設計フェーズ6〜8週間、工事フェーズ6〜10週間となります。どれくらいの期間がかかるのかを事前に予測して、しっかりスケジュールの管理をするようにしましょう。

また移転先の契約と現状オフィスの契約の重なる期間を少なくして、なるべく余分な家賃が発生しないように計画するのがポイントになります。

②コンペフィー(参加報酬)の設定

コンペフィーはコンペに参加した個人およびデザイン会社に支払う参加報酬のことです。日本ではコンペフィーを支払わず無償でコンペを開催するのが一般的です。通常は知り合いの紹介やネットなどで参加する企業を探します。

しかしクオリティが高く人気のあるデザイナーやデザイン会社は、よほどの理由がない限りコンペには参加しません。時間と労力をかけてコンペに参加しても、選ばれなければ無駄になってしまうからです。同じように普段はコンペを受け付けていても、タイミングによって参加に特段のメリットが見えない場合は参加しないということもあります。
そういった場合に、有償でコンペを開催することで参加メリットをつくり出し、優秀なデザイン会社との出会いや提案のクオリティ向上も望めます。デザイナーのやる気にもつながるので、予算に余裕があれば検討してみるといいでしょう。

③移転先ビルの工事区分の確認

内装工事は、一般的に「A工事」「B工事」「C工事」と呼ばれる工事に区分されています。工事区分はビルごとに設定が異なるため、コンペを開催する前に移転先ビルの区分を調べます。それによって工事できる範囲やデザインへの影響、負担する費用が変わるので、オフィス移転時には注意しましょう。

工事区分費用負担工事業者工事例
A工事オーナーオーナーが選定外壁塗装、エレベーターなど
B工事テナントオーナーが選定空調設備、排水・排気など
C工事テナント賃借人が選定内装造作、什器備品など
一般的なビルの工事区分の考え方

入居者であるテナントが費用を負担するケースは、表にあるB工事とC工事です。B工事はオーナー指定の施工業者となるので、今後のビジネスパートナーとしての付き合いやボリュームを理由にした金額交渉がしづらく、お付き合いのある業者さんへのヒアリングだけで想定していた予算より一般的には高くなります。

予算がデザインに与える影響は大きいので、工事区分もしっかりと要件に盛り込みデザイン側である程度予算をコントロールできる状況をつくりましょう。何度もいいますが、工事区分はビルによって異なるので、物件の契約前にオーナーへ確認しておきましょう。

デザインコンペを企画する前に準備すべきこと

コンペも外部企業に対してのひとつの依頼となるので、開催する前に事前準備は必要です。急に依頼内容が固まることはないので、下記の順に状況を整理し、きちんとした依頼書をつくりましょう。

移転先の物件情報をまとめる

コンペ参加デザイン会社に事前に伝えられるように、移転先の物件情報をまとめておきます。

可能なら物件の図面一式を用意しましょう。その場合は平面図はもちろん天井設備の状況がわかる天井伏図や設備図関係、工事区分表なども必要情報になります。また工事のコストも提案に含める場合は、物品の搬入条件や工事日、工事時間などのビル固有の条件も必要になります。もし可能であれば移転先ビルの現調を計画します。物件の規模や現況がわかれば、詳細なデザインプランをイメージできます。

詳細な情報がないままでは予想外のやり直しが発生する可能性もあるので、事前に準備しておきましょう。

現在の課題や目的を明確にする

理想のオフィスを実現するために、現オフィスの問題点を洗い出して目指すオフィスを明確にしましょう。

たとえば働きやすく開放的な雰囲気や、企業イメージの向上など。新しいオフィスをどんな場所にしたいのか、コンペに参加する会社へ目的をしっかり伝えることが大切です。

予算を決める

あらかじめ予算を決めておきます。

内装工事は内容によって大幅に変わるので、思っていたよりも費用がかかる場合があります。必要な費用をすべて書きだして、内装工事費にどれくらい使えるのか明確にしておきましょう。

スケジュールを決定する

内装工事を完了するまでのスケジュールを決定しておき、コンペに参加する会社には工期を含めた全体的なスケジュールを伝えましょう。

提案までのスケジュールのみではなく、提案後の流れや工期がわかればスケジュールに合わせてオフィスデザインを提示してもらえるからです。

素晴らしいデザインでも大幅に納期が伸びるような工事では、時間も予算もオーバーしてしまいます。そのためスケジュールを決定しておくことが大切です。

コンペの提出物を決める

コンペの提出物は、それぞれの会社に同じ条件で伝えます。提出物の内容は事前に決めておきましょう。

提出物の例:

  • デザインコンセプト
  • 平面図
  • 見積概算
  • イメージパース(パースがない場合は展開図でも)
  • 模型(オフィスの提案では稀)

組織表を作成する

コンペの準備を行う人材の組織表を作成しておきます。

コンペの開催はそれぞれの業務別に数人が担当して行います。参加するデザイン会社とのコミュニケーションが重要になるので、窓口となる担当者やメンバーの役割を明確にしておきましょう。

オフィスのデザインコンペの流れ・方法

実際にオフィスのデザインコンペを開催するときには、どんな流れになるのでしょうか。

デザインコンペを開催する方法を、5つのステップで紹介します。

1.提案依頼書(RFP)の作成

コンペで失敗しないためにも、提案依頼書(RFP=Request for Proposal) を作成しておきましょう。

RFPとは提案を依頼する会社に、プロジェクトの要件を伝えるための書類です。依頼書や企画書のようなものだと考えてください。プロジェクトの目的・盛り込んでほしい機能・デザインテイスト・スケジュール・予算・契約条件などを盛り込んで作成します。オフィスデザインの場合は、入居先の情報で大きく結果が変わってくるので、事前に調べておいたビルの条件をあわせて伝えます。

2.説明会(オリエンテーション)の開催

参加希望もしくは参加検討されているデザイナーおよびデザイン会社にむけて、同じ条件でコンセプトや意図を伝える説明会を開催しましょう。説明の後に質疑応答を参加者全員の前で行い、その回答についても同じ情報量になるようにしましょう。

3.提案の提出(プレゼンテーションの場を設ける場合も)

デザイナーやデザイン会社など参加者全員に同じ日時までに提案書を提出してもらいます。その後、参加者を招きプレゼンテーションの機会を設ける場合があります。プレゼンを受ける場合、事前に提案書を確認の上、質問をまとめておきましょう。

4.提案の比較・検討

提案書の内容をもとに、各社のデザインや見積を比較して検討します。各社、同じ条件をベースに提案してもらっているはずですが、条件を見落としていたり、魅力的な提案をつくるためにあえて条件を無視している場合もあるのでしっかりチェックしましょう。見積やデザイン内容が妥当かどうか専門家ではわからない場合もあるので、第三者として内容を精査してもらえるように準備しておくと、より検討の精度が上がります。絞られた提案の中で、決めてにかける場合には、追加で提案で受けて最終決定することもあります。 

5.プロジェクトの開始

選定されたデザイナーおよびデザイン会社とプロジェクトがスタートします。そこからいただいた提案をベースに、空間を現実化していきます。コンペで伝えきれていなかった諸所の要件を盛り込んでプランを修正したり、コストの最適化をはかって、最終的な設計案を一緒につくりあげます。

オフィスのデザインコンペを成功させるポイント

理想のオフィス空間を実現するために、近道はあまりなく、前項までに説明してきた事前準備をきっちり行うことが重要なポイントになります。

見ていただいた通り社内にきちんとした知識や経験のある人材が必要不可欠になります。ただそういった人材の確保が難しいようであれば、PM(プロジェクトマネジメント)の業務を専門会社に依頼するのも有効な方法となります。

PMとは、高いスキルと経験が必要とされるプロジェクト進行の責任者のことです。外部のPMを活用することで専門知識を持った担当者がコンペの目的・予算・納期に応じてスケジュールを組みたて、企画から引き渡しまで円滑に進行できます。

コンペの全体像を把握してトラブルにも対応してくれるPMを委託すれば、デザインコンペを成功に導けるでしょう。

オフィスのデザインコンペでPMをお探しの方は、株式会社木下商会の村山にお気軽にご相談ください。

まとめ

オフィスのデザインコンペを開催するためには、具体的かつ広範囲な事前準備が必要不可欠です。

コンペ自体の知識や工事の経験がないまま進めると失敗する可能性が高いので、社内で人材を確保できない場合は外部への委託をおすすめします。プロの力もうまく使って、デザインコンペを成功させましょう。

今回ご紹介した方法を参考にして、社員が働きたくなる理想のオフィスデザインを実現させてくださいね。