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オフィスとICT〜コロナ禍で進化する組織運営〜

“オフィス”は、もともと事務の仕事をするために人が集まる場所です。このタイプのオフィスは、プロダクトの生産工場を参考に、一連の作業を分解して同じ作業を束ねることで合理化、効率化し、生産性を高めるように進化してきました。

同様に、コンピューティング・テクノロジーもまた、生産性を高める技術として誕生しました。ただし、人間には身体的な制限があり、組織にはこれまでに培ってきたノウハウが根付いているため、技術は発明されていても、置き換えやすい機能から少しずつIT化してきたと言えます。

しかし、新型コロナウイルスの猛威により、社会的に「会う」という行為が制限されると、今まで断片的にしか使われていなかったITのソリューションが急に日常的に必要とされるようになり、世界は急速に変化しました。同時に、オフィス空間には、生産性だけでなく、将来を見据えた創造性や社員の幸福度を高めるための仕掛けが求められるようになっています。

現在、コロナ禍を前提とした状況になってきた中で、オフィスに集まって仕事をするためにどのようなITテクノロジーが導入されているのか、見ていきましょう。

Eメールの出現とICTによる組織運営の変化

情報通信技術(ICT)は情報の伝達を効率化し、コミュニケーションを円滑にすることを目的としています。以前は会話は対面や電話、書類は手渡しや郵送やバイク便、ファクスなどで行われていましたが、Eメールの登場により24時間、場所も人数も問わず情報を伝達することが可能になりました。この画期的な技術は、同時期に普及していた携帯電話と共に、ビジネスのスピードを加速させ、世界を小さくしました。2006年には、テレビ会議システムが発売され、遠隔地をアナログ回線で繋ぎ、あたかも同じ会議室にいるようにセッティングできるようになりました。

コロナウイルスの蔓延により出社が制限されるようになると、ミーティングやマネジメント、雑談までもがオンライン上で行われるようになりました。多くのWeb会議ツール、例えば「Zoom」「Microsoft Teams」などが登場し、SaaSモデルが一般的になり、サーバールームを持たないオフィスが増えました。また、テレワーク用の環境づくりが進み、持ち帰り可能なノートPCの調達やクラウドの導入が推進されています。ICTの浸透により、組織運営の在り方が変わってきたと言えます。

コラボレーションやシナジーを加速させるオフィス

オフィスは、情報を伝えるためだけでなく、人々が集まることによって新しいアイデアや問題解決方法が生み出される「コラボレーション」や「シナジー」も期待されます。そのため、オフィスにいる社員の行動を管理し、位置情報を共有する新しいICTの取り組みが注目されています。大手企業のソニーをはじめ、スタートアップ企業のPHONE APPLIやイチミエなどからも、近年このようなサービスがリリースされています。これらのサービスは、空間の利用効率を向上させることができますが、2018年に開発された内田洋行の「Smart Office Navigator」は、人々のコラボレーションの可能性を真摯に追求するために開発された総合的なICT基盤です。オフィス家具の開発で人々と直接向き合ってきた経験を生かし、オフィスのICT推進にも強みを発揮しています。

これらのシステムではPCやスマホの画面で共有することで、誰がどこにいるのかをリアルタイムで把握することができます。これにより、作業が一段落したらチャットで話しかけたり、会いに行くことができます。また、自然な労務管理も可能になります。

位置情報だけではなく、会議室の予約や混雑状況、AV機器、社員同士のチャットなどをクラウド上で統合し、リアルの場所とバーチャルの場所を結びつけてソーシャルな環境を作り出すことができます。スマートフォンから会議室を予約し、出席人数や設備を確認してベストな会議室を選択できるだけでなく、会議室前にあるタブレット端末と連動して空き予約を防止したり、時間超過をアラームで知らせることも可能です。

また、大規模ビルに組み込まれたBEMS(Building Energy Management System ビル内の空調や照明設備などをセンサーやシステムでコントロールする技術・ベムス)と連携することで、スマートフォンで空調や照明などを制御することも可能になります。会議室の環境を事前に整えたりすることで、エネルギー消費を抑制し、SDGsの活動にも繋がります。

これらは大規模なオフィスで機能するシステムです。社員数が多い企業ではなかなか難しい社員同士の出会いを演出し、出社時のパフォーマンスを高めるためのソリューションです。

ABWによる柔軟な働き方を推進する大企業

オフィスの作り方が、従来の工場をモデルとした同じ作業束ねて効率をあげて最終的にまとめる働き方だけではなく、PCやスマートフォンを使って社内外を移動しながら仕事をする働き方に変わってきており、その動きに対応するためフリーアドレスやABW(Activity Based Working)の必要性が高まってきております。現在、多くの大企業はABWに対応したオフィスに挑戦しており、可動性の高い家具やハイブリッドワークに対応した執務空間が重視されています。それらを通して時間や場所を超えたチームを結成し新しい価値を生み出したり、個人の能力が最大限に引き出されることが期待されています。

今後は、良くも悪くも人間の多様な特性を考慮しつつ、自然に人と人を結びつけることがデジタルに求められていくでしょう。