不動産の世界は、それぞれが世界で一つしかない物件の権利を扱うので、交渉に始まって交渉に終わると言っても過言ではありません。普通の交渉というのはあくまでもガイドラインであって、それを必ずしも守らなくてはいけないものではありません。その前提がありながら、法律として、必ず守らないといけないものと、守ったほうが良いものがあります。不動産の交渉が複雑なのは、そういった背景もあります。
交渉は、気持ちよく不動産を利用していくときの基本となっていきます。そこで今回は、居抜きのオフィスにまつわる事前準備と交渉術についてお話します。
オフィスを居抜き退去する場合の事前準備と交渉術
企業が居抜きの状態でテナントとしてビルに入居した場合、退去する際も居抜きのまま出ることができれば、原状回復費などを大幅に削減することが可能です。
居抜き退去をするためには、事前準備と交渉術を知っておくことが重要です。押さえるべきポイントを説明します。
ポイント①入居時に取り交わす契約書内容を交渉する
賃貸オフィスに入居した場合、基本的に退去時には原状回復の義務が課せられます。
原状回復の内容は、賃貸借契約書に原状回復要項として記載されるケースが多く、あらかじめ定められた基準に従って原状回復工事を行ったうえで退去するのが通常の手順です。
しかし契約書の内容によっては、原状回復を行わず、居抜きで退去できる場合もあります。
具体的には、原状回復を定めた箇所に「貸主の承諾があればその限りではない」などの文言が入っていれば、居抜き状態での退去が認められることがあります。
入居時に不動産会社やビルオーナーと交渉し、契約書に上記のような条件を盛り込めないか、あるいは前もって居抜き退去を認めてもらえないか確認・交渉をしてみましょう。
入居時に退去するときの話をするのは、失礼に当たるように考えてしまう人もいるかもしれませんが、最初の段階で双方が合意しておけば、後になって揉めることもありませんので、自分の要望ははっきりと伝えることが大切です。
ポイント②日頃のコミュニケーションが交渉を有利にする
入居中は、貸主であるビルオーナーと良好な関係を築くことが重要です。
ビルオーナーも人間ですから、日頃のコミュニケーションを大切にする借主に対しては、要望に応じてくれる可能性も高いでしょう。
また入居中に借主側の過失などで起こしてしまった問題は放置せず、必ずビル管理会社やオーナーへ報告し解決させましょう。
例えば、共用部の壁を傷つけてしまったとか、トイレの便器を一部破損させてしまったなど、故意でなくとも次の入居者の迷惑になりそうなことは報告するのがマナーです。
その場合、借主側で修繕費用を負担する可能性もありますが、善良なオーナーであれば貸主側で修繕対応してくれる場合もあります。
逆に黙ったまま放置し、後になって借主側で破損させたことが発覚した場合、オーナー側の信頼を失うことになりかねません。
オーナー側の心証が悪くなれば、交渉事も有利に進められなくなります。
借主側の心構えとして、日頃から他人の所有する建物の居室を借りているという意識を持っていることが重要です。
ポイント③次の入居者の目星をつけよう
借主側で居抜きでの入居を希望する次の入居者を見つけることができれば、オーナーとしても居抜き退去の許可を出しやすいです。
入居者を探す方法としては、居抜きの経験が豊富な不動産会社に相談する方法や、マッチングサービスを活用する方法もあります。
また居抜き退去する場合は、何をどこまで残置するのか、前もって条件を決めておくことが重要です。
オフィスには内装以外にも、什器や備品など様々なものがありますので、撤去するものと残すものの区分けを明確にしておかないと、次の入居者からのクレームに繋がってしまう可能性もありえます。
ビルオーナーとしても避けたい事態ですので、どの姿で次の入居者へ引き渡すか条件を決め、あらかじめ合意を得ておく必要があります。
オフィスに居抜き入居する場合の事前準備と交渉術
次に、オフィスに居抜き入居する場合の事前準備と交渉術について説明します。
①居抜きオフィスの情報を集める
居抜きオフィスを探すためには、居抜きの経験が豊富な不動産会社に相談する方法か、インターネット上で情報を集める方法があります。
居抜きの経験が豊富な不動産会社であれば、一般には出回っていないオフィスの情報を持っている場合がありますので、希望を満たす物件が見つかる可能性が高いです。
インターネット上で情報を集める方法としては、不動産情報サイトなどで検索するほか、マッチングサービスを活用するのも良い手段です。
マッチングサービスではサイトに登録しておけば、利用者に対し不動産会社が希望条件に合う物件を紹介してくれます。
オンライン上でやり取りが可能なため、不動産会社まで足を運ぶ手間もかからず、効率的に物件を探すことが可能です。
なお物件探しをする際は、なるべく検討期間が長くとれる状況にしておくことをおすすめします。
図面や写真などの情報だけでは、室内の状況や周辺環境などが把握できず、実際に行ってみないと分からない点も多々あるからです。短期間で急いで決めてしまうと失敗する可能性もありますので注意しましょう。
また入居後に交流の増えるビルオーナーや管理会社の情報を集め、ある程度、特徴を知っておくことも重要です。
②内覧して状況を把握する
入居したい物件が見つかったら、不動産会社へ物件内覧を申し込み、実際に足を運んでみましょう。内覧の際には、チェックするポイントがいくつかあります。
【内装・外装の状態】
目に見える内装や外装、および前テナントが残置する什器、備品などを確認します。
何がどの程度残っているか、物や数を正確に確認し、リスト化しておくと良いでしょう。
設備機器、家電製品などがある場合は、性能を把握し、実際に動作確認することをおすすめします。
【ビル基準のインフラ設備】
電気設備の空き容量、空調設備、排煙設備の方式など、ビル基準としてのインフラ設備を把握しておきましょう。
特に電気の容量増設、空調、排煙機の増設工事などが発生する場合、かなりのコストが発生しますので、前もって基準となる設備の容量などを把握しておき、できるだけ増設が必要ないようなレイアウトを考えておくことをおすすめします。
③合意できるポイントを見つけ交渉しよう
居抜きでの入居が不可となっている場合でも、交渉次第でオーナー側が譲歩してくれることもあります。その際は、合意できるポイントを見つけ、交渉してみましょう。
例えば、入居前の内覧で内装の状態を確認し、そのまま使えそうなものがある場合は、その場で不動産会社やオーナーに相談してみることをおすすめします。
前テナントが持ち帰ることが決まっている場合は難しいですが、廃棄処分する予定の什器、備品などであれば、引き継ぐことに対して大きな問題はないはずです。
また原状回復を行うかどうか、明確に決まっていない状況であれば、入居者さえ良ければ居抜きで引き渡すことを認めてくれるオーナーもいます。
その場合、しっかりと引き継ぐものをリスト化し、併せて退去時の原状回復条件を詰めておくことも重要です。
まとめ
以上が、居抜きオフィスの入居・退去時を検討する際に押さえておきたいポイントです。
最近では新型コロナウイルスによる景気悪化の影響で、オフィスの入退去が増加傾向にありますので、不動産会社やマッチングサービスでも入退去を検討している企業が多く見つかることでしょう。
入退去時に掛かるコストはできる限り抑えたいというのが、多くの企業の本音でしょうから、居抜きでの入退去を考えるには良い時期かもしれません。
居抜きオフィスの入居・退去を検討している企業様は、ぜひ今回ご紹介した事前準備と交渉術を活用してみてください。