居抜きオフィスに入居した企業がビルを退去する時、民法で借主の原状回復義務が定められているため、原則として原状回復が必要です。
しかし居抜きオフィスの原状回復は、通常の原状回復と異なり、自身が入居した時の状態に戻せば良いとは限りません。貸主との間で特約などを結んでいなければ、前テナントから引き継いだ内装や什器なども含めてすべて撤去し、まっさらな状態に戻す必要があります。
また、居抜きの状態で入居した場合、原状回復の内容把握がしづらく、どのような形に戻せば良いのかイメージが湧きにくいこともあるでしょう。状況によっては、貸主と借主の間で認識の違いが生じ、トラブルに繋がる可能性もあります。そのため、居抜きオフィスへ入居を検討している企業や、既に入居していてオフィス移転を検討している企業は注意が必要です。
この記事では、そんな企業の方々へ向けて、居抜きオフィス退去時の原状回復の説明と、その注意点について解説します。
物件の原状回復とは
物件における「原状回復」とは、借主が賃貸していた住宅やオフィスを、賃貸借契約締結前の状態(借主側で造作したものをすべて撤去し、元の状態)に戻すことをいいます。
また、同じ原状回復でも「居住用の住宅」と「オフィス」の場合では違いがあります。
居住用の住宅の場合
利用の仕方
引き渡された状態を大きく変えず、家具の配置などでレイアウトを作って使用する場合が多い。
原状回復費の負担
経年劣化や自然損耗による変化については、基本的に原状回復費を借主側が負担しなくて良いとされている。
オフィスの場合
利用の仕方
壁紙や床材、配線、パーテーションなどに手を加え、レイアウト工事を行ったうえで入居するのが一般的。
原状回復費の負担
賃貸借契約上で原状回復の特約を決める場合が多く、その中に経年劣化や自然損耗を含めたすべてを借主側の負担で元に戻す、といった内容が盛り込まれていることがある。
上記のため、オフィスを退去する際には原状回復工事が必要になり、大きな労力がかかります。
居抜きオフィスの原状回復はどうすれば?
では、居抜きオフィスの原状回復は、どのような内容になるのでしょうか?
通常の原状回復との違いや注意点などを以下にまとめます。
居抜きオフィスの原状回復工事の有無
前項で説明した通り、居抜きオフィスであっても退去時には原状回復が必要です。
例外として、貸主側の承諾があれば、原状回復を行わず、居抜きの状態のまま退去できる場合もあります。ただし、貸主側が承諾するのは、次に入るテナントから居抜きで引き渡されることの承諾を得ている場合などです。
次のテナントが決まっていない状態だったり、居抜きでの引き渡しを承諾していない場合は、原則として原状回復が必要ですので、あくまで例外として考えておいたほうが良いでしょう。
原状回復工事では何を行うのか
それでは、オフィスの原状回復工事では、何を行うのか?
主には、テナント側で造作した壁紙や床材、間仕切りなどの解体・撤去作業がメインです。
造作したものを撤去すると、壁や床がボロボロになってしまいますので、再び新しい壁紙や床材に張り替える工事が発生します。また、机や椅子などの什器も撤去しなければなりませんので、移転先への配送手続き、あるいは処分手続きをする必要があります。
造作したものが多かったり、複雑なレイアウトだったりすると、原状回復にかなりの日数を要しますので、前もってビルの管理会社や工事業者と打合せし、余裕のある計画を立てることをおすすめします。
原状回復工事の相場
原状回復工事にかかる費用の相場を調べる方法として、面積(一坪)辺りで計算する「坪単価」という考え方があります。金額は、一般的に一坪あたり2~5万円、大規模なビルでは5~10万円前後とされており、これにオフィスの坪数を掛けることで、工事金額の概算値を出すことができます。
ただし、これはざっくりとした基準値であり、この通りにならないケースも多々あることを留意しておく必要があります。物件によって、原状回復の内容に違いがあるうえ、オフィスのレイアウト状況によっても金額は大きく異なります。
たとえば、空調機、排煙機など大きな設備を導入しているオフィスでは、撤去にかなりのコストがかかりますし、間仕切りの数などもオフィスによって様々で、廃棄するか持ち出すかによっても金額は変わります。
また近年、工事業者の人件費が高騰しており、原状回復工事の金額も高くなっています。そのため、坪単価はあくまで参考程度に捉え、実際にかかる金額はこれより多めに考えておいたほうが良いでしょう。
トラブルを未然に防ぐ!居抜きオフィス退去時の注意点
ここでは、居抜きオフィス退去時によくあるトラブルと注意点を説明します。これらのポイントを押さえ、トラブルを未然に防ぐようにしておきましょう。
注意点①原状回復の内容が曖昧で費用負担が大きい
前項でも述べましたが、近年、工事の金額は高騰しています。これに加えて、賃貸借契約書に記載されている原状回復の内容が、曖昧に定義されているケースが多く、本来は貸主側で負担すべき内容が、工事費の中に盛り込まれていたり、物件による独自のルール(工事は夜間限定など)があることで、負担金額が増加するケースがあります。
また、工事にはA工事、B工事、C工事という区分があります。それぞれの違いは下記の通りです。
- A工事:ビルオーナーが工事費を負担し、ビル指定業者で施工する工事
- B工事:借主が工事費を負担し、ビル指定業者で施工する工事
- C工事:借主が工事費を負担し、借主側で手配した業者で施工する工事
原状回復工事に関わるのは、B工事とC工事ですが、B工事はビル指定業者のため、交渉が難しく、一般的な相場より高額な見積を提示される場合もあります。
こういったトラブルを未然に防ぐためには、借主側で工事の知識を持った人へ見積査定を依頼するか、専門のコンサル会社へ依頼する方法があります。
注意点②契約締結前に原状回復要項を確認しよう
居抜きオフィスの原状回復に関するトラブルを避けるためには、賃貸借契約締結前に退去時の原状回復要項、つまりは原状回復の内容について、貸主側と認識を合わせておくことが重要です。物件内覧の際に、オフィスの状況を隅々まで見て、気になる箇所はメモを取ったり、写真を残すなどしておきましょう。
そして原状回復時にはどうすれば良いのか、前もって貸主側へ確認し、決まった内容を締結する契約書内に記載しておけば確実です。 書面として残しておけば、後になり「言った言わなかった」の問題も起こりませんので、少し手間ではありますが、入居前に入念なチェックを行うことをおすすめします。
居抜きオフィスの原状回復では入居時の取り決めが重要!
居抜きオフィスの原状回復では、通常の原状回復よりトラブルが起こりやすいということを、あらかじめ理解しておきましょう。
重要なのは、入居時に退去時に行う原状回復の内容について、しっかりと貸主側に確認し、取り決めておくことです。入居時に退去するときのことを話し合うというのは、あまり気が進まないかもしれませんが、一度契約を締結してしまうと取り消しはできませんので、最初が肝心であると考えるようにしましょう。
また、既に居抜きオフィスへ入居している企業は、退去の予定がない場合でも、一度賃貸借契約書を確認し、原状回復の内容をしっかりと把握しておくことをおすすめします。そして疑問点などがあれば、ビルの管理会社やオーナーへ質問し、不明点はできるだけ残さないようにしましょう。
まとめ
以上が、居抜きオフィス退去時の原状回復の注意点の説明です。
この記事が、居抜きオフィスへ入居を検討している企業や、既に入居していてオフィス移転を検討している企業の方の一助になれば幸いです。